12. 校長は自身の裁量を見直せ

仕事で成功する

ずっと変わらないと思っていた

学校の課題は山積していますが、どうすればいいと思いますか?

私自身は、各校が「理念」を掲げることが最優先だと考えています。民間企業では、会社の理念が重視される時代になってきました。現代の若者は(というよりすべての人間は本質的にそうだと思いますが)、給与や待遇だけで仕事を選ぶという考え方から、その会社で何ができるのか、自身の強みを生かせるのか、その会社がどのような形で社会に貢献しているのかを視野に入れたうえで仕事を選ぶ方向にシフトしています。いくら給与が高くても、やりがいや誇りを持てず、後ろめたい思いを抱え、自身の成長が見込めない会社に入る気が起きないのは、誰にとっても言えることでしょう。

 

その意味で、公立学校も民間企業に倣うべきであると思います。これは「生徒確保」という意味ではありません。どのような生徒であっても、「うちの学校に入学したら、この方向性でここまで育て上げる」といった信条を掲げ、それを求める生徒に来てもらい、理念に見合った結果を出すということです。

 

理念が明確になると、従来問題にしていた多くの事柄は「些事」になります。生徒の外見や服装に注文を付ける校則や、「授業中は静かに」といった「べき論」は捨て去られます。大切なのは、「これからの日本をつくる生徒を育てているんだ」といった気概を持ったうえで、教師が生徒に働きかけることでしょう。

 

しかし、現実は理想から乖離しています。私たち教師は目先のことだけを追いかけている。

「髪は染めていないか。化粧は? スカート丈は?」

「就職・進学実績は達成できたか?」

「保護者のクレームを事前回避できているか?」

表面的なこと、短期的視点、自己保身に注力するあまり、本質的で長期的視点に基づいたチャレンジを放棄しています。

 

もし、各校の職員が全員で忌憚のない意見を出し合い、理念を掲げ、その実現を最優先事項として取り組み続けたとしたら、ほとんどのことはどうでもよくなります。そのような環境では、日々ニュースで取りあげられている教員の非違行為も、格段に少なくなるはずです(詳細は、当記事内の「https://eleadstoe.com/free-the-teacher/」を参照)。

 

ただ、現実は重く、遅い。理念形成に至るコンセンサスやプロセスは、ちょっと想像しただけでもはるか遠い道のりのように考えられます。そんな中、あるニュースが飛び込んできました。東京都千代田区立麹町中学校と、同世田谷区立桜丘中学校の試みです。

 

校長が学校の方向性を決める

中間・期末試験といった定期テストをやめる公立中学が出てきている。東京都では、昨春全廃した千代田区立麹町中学校に続き、世田谷区立桜丘中学校も今春から全廃を決めた。やめるとどうなるのか。改革途上の桜丘中を訪ねた。

(2019年7月1日『朝日新聞DIGITAL』)

 

桜丘中の試みとして、

・校則や授業時間を知らせるチャイムの廃止。

・教室に入りにくい生徒は職員室前廊下に勉強スペースを設置。

・読み書きの苦手な生徒にはタブレット端末使用を許可。

・定期テスト廃止。

・遅刻のノーカウント。

などが挙げられています。いいですよね、これ。大賛成です。

 

一方で、授業前に「学習の時間」を新設したり、小テストの頻度が格段に増えたりと、生徒の学力向上には熱心な取り組みを行ってもいます。

 

ただし、上記は方法論であり、新システム導入の理念は下記のとおりです。

・教師と生徒、双方にとって定期テストが通知表のためのものになってしまったこと。子どもの学ぶ意欲を引き出すのに役立っているのか疑問があったこと。

・生徒一人一人に、自身に最適な学習方法を考えてほしいこと。(西郷孝彦校長による)

 

私がこのニュースを知ったのはつい先日のことですが、それ以前に、麹町中学校長・工藤勇一氏の著書「学校の『当たり前』をやめた。―生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革―』を読んでいました。「宿題廃止」「クラス担任制廃止」「定期テスト廃止」。私は少なからず驚きをもって本を読みました。私の驚きは、従来の学校システムの廃止にはありませんでした。そうではなく、

「公立の義務教育学校で、ここまで自由にできること」

「それを実現するだけの裁量を、学校長が持っているという事実」

に驚いたのです。

 

先に挙げた記事では、こう締めくくられています。

文部科学省によれば、定期テストを実施しなければならないという決まりはない。担当課は「学習指導要領に評価の方法の工夫を求める記述があるように、むしろ目標に準じた評価方法を現場で工夫してほしい」と話す。

昨春から定期テストを全廃した千代田区立麹町中学校も、単元テストを実施しており、教科によっては複数回、再テストをしている。宿題やノート提出もなくし、教員の負担軽減のためにテスト採点にはAIの導入も検討中という。

工藤勇一校長は、「履修主義から習得主義へシフトすべきだ。強いられて勉強をどれだけの量したかではなく、自分の学び方を見つけて何をどう習得するかを考えてほしい。その結果、全員、通知票が5ならそれでもいい。定期テスト廃止は、学習者主体の学校に変える改革の一つでしかない」と話す。(宮坂麻子)

2019年7月1日「朝日新聞DIGITAL」

 

「履修主義から習得主義へのシフト」が「理念」のように見えますが、これもまだ方法論にとどまっています。直後に述べられている「主体的な学びの習得」も、おそらく「理念」の下位項目にあたるに過ぎないでしょう。麹町中学校には確固とした理念があり、それを実現するために、従来の学校像を捨てた。その改革の途上で同校の職員たちは、「自分が本当にやりたかったこと」がわかるはずです。以前より仕事が楽しく感じられ、以前より自分自身が人間らしくいられる実感を持ち、今日の営みが明日につながっているという確信を得ながら仕事に邁進できるのではないでしょうか。

 

あなたも校長になれる

わたしが皆さんに期待することは、「あなたも校長になってください」ということです。もちろん、実際に管理職試験を受けたうえで、リアルな立場に就くことを目指しても構いません。というより、あなたに熱意とプランがあるなら実際にそちらを目指すべきです。

しかし、管理職試験を受けなくても、校長になることは可能です。今、この瞬間に、「私は本校の校長として考える」と決めるだけです。

 

「校長になる」ことで、いろんなことが見えてきます。それまでは一教諭として、自身の教科、所属分掌や担当する部活動、担任を持つクラス、あるいは所属学年のことしか見えず、関心がなかったあなたが、学校全体を、さらには地域における学校の果たす役割を意識しながら仕事をするようになります。

 

そこまですると、次に見えてくるのは「学校の限界」です。従来の考え方やシステムでは、未来を担う生徒を育成できないことが、はっきりとわかってくる。その結果、「学校の可能性」を再度、模索し始めることになるのです。

 

あなたを含めた同僚がみな、「校長」目線で発言したり行動したりし始めたら、楽しいですよ(笑)。おそらく些事は放っておかれ、日々チャレンジと微調整を繰り返し、生徒から信頼され、愚痴やため息がほとんど聞かれない職員室で、新たなアイディアの交換がなされるはずです。

 

私たちは「校長」になれる。ならば、自身の裁量を見直しましょう。

そして、本当の校長にもリクエストをしましょう。「あなたの裁量を、最大限に発揮してみませんか?」と。

 

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